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第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

 

 映像翻訳の現場から

徹底したリサーチが必須、ドキュメンタリー映画の翻訳現場
----関美冬さんに聞く

image 映画『シェルタリング・スカイ』の原作者として知られるポール・ボウルズの人生を描いたドキュメンタリー映画『ライフ・オブ・ポール・ボウルズ』が公開予定だ。この字幕を担当したのが今日ご登場いただく関美冬さん。『ツインピークス』などフィクションのヒット作も手掛けてきた関さんに、ノンフィクションの翻訳の醍醐味について聞いた。

 
翻訳は細かいことの積み重ね。時間が許す限り徹底的にリサーチ

『ツイン・ピークス』で一躍有名に、そして『ストレイト・ストーリー』、『理想の結婚』など劇映画の字幕でも活躍中の関美冬さんが、ドキュメンタリー映画『ライフ・オブ・ポール・ボウルズ』を手がけた。字幕翻訳家歴15年のベテラン・関美冬さんにドキュメンタリーとドラマの違い、そしてこの映画の翻訳上の苦労などについて語ってもらった。

  「字幕は映画作家と観客との橋渡しの役をするものなので、空気のように"あることを忘れてしまう"ようでなければならないのですが、情報の取捨選択は限りなく難しいですね。ドキュメンタリーの場合は、それがもっと難しい、ということは言えるかもしれません」と関美冬さん。このドキュメンタリーは、映画『シェルタリング・スカイ』の原作者である作家ポール・ボウルズの生涯を、本人や友人たちの証言、そして当時の貴重な映像で綴った作品である。ボウルズはアメリカ人だが、人生の大半をモロッコで過ごし、若いころは作曲家としても嘱望されていた。ウィリアム・バロウズの小説『裸のランチ』にも描かれていた、夫人ジェインとのエピソードなど興味深い事実が次々に語られていく。

  image
ポール・ボウルズが愛した
タンジールの風景。

  「短時間で彼の作品の大半に目を通 さなければならなかったのですが、すっかり彼の小説のとりこになってしまい、読むのが楽しくて・・・という状態でした」
なぜ"作品の大半に目を通さなければならなかった"かというと、ボウルズのインタビューの端々に彼の書いた様々な作品が顔を出すからだ。たとえばボウルズが次のように語るシーンがある。

If Van says "Gee, I was burned up last Friday," if the employee on the riverboat has a somewhat simian face..., there is a reason, and it is usually the reason for the entire story.

[すべての物語は推理小説のようだ。狭い意味でではないが、読者が探偵を演じる推理小説だ。登場人物の行動の動機が"謎"となる。そして"手がかり"は、立場や環境に対する登場人物のリアクションだ。チャリアが壁からベッドを動かすのも意味がある。『金曜はカッカしてた』とヴァンが言うのも、船の従業員に夫が追加料金を払おうとして財布は妻のところだと思い出すのも、すべて理由があり、それが物語になる]

自作の2つの短編のディテールを引用して、「こういったすべてに理由がある」と、創作論を展開しているわけだが、いきなり"burned up"と言われても「くたびれた」かもしれないし、「怒っていた」かもしれない。彼の作品を読んでみて初めて「金曜はカッカしてた」という意味だと判明。また"the employee on the riverboat"も「舟の使用人」としていたのを「船の従業員」に訂正した。

「えっ、ヴァンって誰? どの小説に出てくる人? どういう状況? と思ったから、彼の作品の大半を読まねばならなくなったわけです。チャリアもヴァンもここで初めて名前が出てくるので、観客も、ボウルズの作品によほど造詣の深い人でないと何の話をしているかわかりません。チャリアもヴァンも船の従業員も、それぞれ別 の短編の登場人物です。けれどもボウルズは自分の作品について問われているわけですからヴァンが誰かなどと説明することなく、自説を展開しています。それをどう見せるか(説明を加えるか否か)は、このドキュメンタリーを撮った映画作家(監督)の判断ですが、この作品では彼の語るままをそのまま見せています」

もうひとつ配給会社との打ち合わせで面白いやりとりがあったという。
...the bus was, the roof was covered with sheep, you know, blahhing! blahhing! blahhing!

「バスの上には羊が積まれていて、ベエーベエーと鳴いていた、と訳したら、さっそくチェックが入って、羊はメエメエじゃないかと・・・(笑)たまたま『シェルタリング・スカイ』に、ボウルズが羊の鳴き声のBの音にこだわっていたことを示す記述がありまして、めでたく"ベエーベエー"が採用されることになりました(笑)」


【字幕翻訳家 関美冬プロフィール】

1951年東京都生まれ。早稲田大学教育学部英語英文学科卒。ファッション業界、テレビ業界を経て、映画の製作配給会社A.T.G.に勤務。1985年、スイスの映画作家アラン・タネールの映画祭で字幕翻訳を始め、その後フリーに。年間30本以上の作品を手がける。劇映画での最新作は、ジョニー・デップ主演、ロマン・ポランスキー監督の『ナインスゲート』など。翻訳書は『マリリン・トーク』(河出書房新社)『モダン・ネイチャー』『アート・オブ・ヒッチコック』(ともにキネマ旬報社)

 
 
 
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