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Home翻訳者・通訳者インタビュー > 大森望さん
第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

翻訳家 大森望さん
Translator: Nozomi Ohmori

Omori Nozomi
撮影協力:ジュンク堂書店池袋本店

「趣味でやっていたことがいつの間にか仕事になって、また新しい趣味を探してます (笑)」

SF翻訳の世界で知られる大森望さん。翻訳だけでなく一般書の書評や映画評などでも活躍、その仕事ぶりは実に多彩。2004年は文学賞の裏事情を書いた著書『文学賞メッタ斬り!』(豊崎由美氏と共著、PARCO出版)が話題を呼んだ。

多才な大森さんに、翻訳の仕事へのこだわりや、翻訳以外の仕事をするようになったきっかけなどをうかがった。


SFの翻訳はいつごろから?
小学生のころからジュニア向けのSFを読んでいて、中学ぐらいから本格的なSF小説を読むようになりました。最初はフレドリック・ブラウンやレイ・ブラッドベリなどの古典から入って、「ハヤカワSFシリーズ」や創元推理文庫のSFマークを図書館で片っぱしから借りて読んでました。

高校生のとき、地元の同年輩のSFファンが集まって「ファンジン」(SFの同人誌)をつくったんですが、そこに短編SFの翻訳を載せたのが最初ですね。なんとなく「いつか翻訳家になれたらいいなあ」とは思っていて、大学は文学部のアメリカ文学科に行きました。

卒業後、新潮社に就職して、新潮文庫編集部に配属され、編集者としても翻訳SFを担当してたんですが、学生時代から知り合いだったSFファンの他社編集者に頼まれて、勤めのかたわら自分で翻訳もやるようになって。最初に出たのが、1986年の『ドラゴンの目』(デイヴ・モーリス著、東京創元社)と『惑星救出計画』(マリオン・ジマー・ブラッドリー著、東京創元社)です。


SFの翻訳で苦労されるのはどんなところですか?
難度で言うと、ミステリやホラーより大変だと思いますね。
ほかのジャンルでも、いろいろ調べないといけないことはありますが、でもたいてい調べればわかる。SFの場合、「別の銀河系」とか「人間とは異質な生命」とか、何だかよくわからないものが出てきて、ネイティブの読者でも、それぞれまったく違うものを思い浮かべているかもしれません。それを翻訳して日本の読者に理解してもらうには、最初に翻訳家が、頭の中できっちりイメージをつくる必要がありますね。

SFでは、翻訳の世界の常識が通用しないこともあります。 たとえば、feetという単位は、ふつうの小説の翻訳では自動的にメートルに直すことが多いんですが、異世界を舞台にしたSFの場合はそれができない。feetというのはfoot、つまり「歩幅」から来ているので、二足歩行をする生物がいる世界なら使ってもおかしくありません。でも「メートル」は元々「地球の赤道から北極までの距離の1000万分の1」を基準としているので()、地球以外の惑星にそんな単位があるのは変だということになる。

現在は「光が真空中を一秒間に進む距離の299,792,458分の1」となっているが、これが最初の定義)

いろいろな造語が出てくるのもSFの特徴で、「サイバースペース」とカタカナで書けば今は誰でもわかりますが、この言葉が人口に膾炙したのは、黒丸尚さんの訳したウィリアム・ギブスン作『ニューロマンサー』(1986年)が出てから。翻訳では、「電脳空間」と書いて「サイバースペース」とルビを振ってました。こういう造語をどう訳すかに神経を使うのもSF翻訳の特徴ですね。


翻訳以外の仕事を始めたきっかけは?
SFの専門誌に書評を書いたのがたぶん最初。あとは頼まれるままに、『本の雑誌』で新刊ガイドを書いたり、『月刊アスキー』でコンピューター関係のコラムを書いたり。昔は頼まれる仕事はなんでも引き受けてたんで、ゲーム評とかテレビ評とかポルノ小説時評とか英単語マメ知識とか、分野に関係なくいろんなものを書いてます。

きっかけはやっぱり趣味ですね。 ミステリの書評なんかをやるようになったのも、SFばっかり読んでると疲れるから(笑)、その疲れを癒すために、趣味で新本格ミステリを読むようになったのが始まりですね。好きでゲームやってるとゲームの原稿を頼まれるし、趣味でホームページつくるとそっち方面の原稿を頼まれる。趣味でやっていたことがいつの間にか仕事になって、また新しい趣味を探す、みたいな(笑)。もはやなにが本業なのか自分でもよくわかりません。

ミステリ書評のつながりでミステリ関係の新人賞の予備選考を頼まれ、そのうちCS放送の「ミステリチャンネル」で書評番組「Mysteryブックナビ」にレギュラー出演することになり、その流れで「このミステリーがすごい!」大賞の選考委員を頼まれ、さらに『文学賞メッタ斬り!』みたいな仕事まで舞い込んできた。流されるまま、目の前の仕事を片付けてるという感じです。

ただ、自分でおもしろいと思えない仕事はなるべく引き受けないようにしてます。新潮社で編集者をやっていたころから、ただ言われるものをやるだけじゃなくて、「どうせなら自分がやりたいもので苦労しよう」と。 編集者時代は企画を通して本を出せばそれでよかったけれど、今は本が出ても売れないと自分にはねかえってくるから、どうやったら売れるかを考えるのが大事だったり。まあ、考えたからといって売れるとは限りませんが。


仕事の幅が広いほうが、収入も安定するのでしょうか?
翻訳だけやってるほうが効率はいいかもしれませんが、ずーっと同じことばっかりやってると煮詰まってくるので。長編の翻訳やってて、ようやくエンジンがかかってきたころに雑誌の仕事が入ったりするとめんどくさいなと思うこともありますけど。収入で言うと、今は翻訳とそれ以外が半々ぐらいですかね。

あと、今は小説の翻訳一本で食べていくのはけっこうたいへんなんですよ。昔はSFの文庫が初版で最低でも2万〜2万5000部くらい刷っていて、翻訳家には8パーセントの印税が入ったんですが、今は全体的に本が売れなくなって、文庫でも初版が1万部を切ることもあるし、印税が8パーセントいかないこともありますから。翻訳家として売れる原作者を抱えてないとかなりきつい。


近著は「ライトノベル」と、またジャンルが広がっていますね。
昔からそれなりに読んできたものなんで、自分ではジャンルを広げたつもりもないんですが。逆に、ライトノベルはそんなに特殊なもんじゃないよっていうのが『ライトノベル☆めった斬り!』の基本的な立場です。子ども向けのルパン全集とかホームズ全集とか、小林信彦、辻真先なんかのジュブナイルの延長線上にあって、ライトノベル的な小説の歴史はたぶん30年を超える。

僕は1961年生まれで、「40歳過ぎてライトノベルなんて!」なんて思う人もいるかもしれませんが、自分の周りでは50歳過ぎてライトノベル読んでいる人も普通です(笑)。 体裁は若者向けというか、現役のライトノベル読者向けなんですが、菊地秀行、夢枕獏、新井素子、氷室冴子あたりから小説を読みはじめた30代ぐらいの読者をターゲットにしてるつもりです。ブックガイドのほうでは、最新のライトノベルもたくさん取り上げてるので、ライトノベルに興味はあるけどなかなか手が出ないっていう人に読んでほしいですね。

撮影協力:ジュンク堂書店池袋本店
大森 望(おおもり のぞみ)

翻訳家。1961年高知県生まれ。京都大学文学部アメリカ文学科卒業。新潮社の編集者を経て、翻訳家に。SFの翻訳を中心に、書評、映画評、コンピューター雑誌のコラム等でも活躍。訳書に『犬は勘定に入れません』(コニー・ウィリス著、早川書房)、著書に『ホーンテッドマンション』(竹書房)など。2005年3月に編訳書『輝く断片』(シオドア・スタージョン著、太田出版)刊行予定。

HP「大森望のSFページ」

『ライトノベル☆めった斬り!』
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大森 望、三村美衣 著(太田出版/定価1554円)

平井和正、夢枕獏、菊地秀行、氷室冴子、新井素子から『ロードス島戦記』、『十二国記』等、ライトノベルの30年史を対談形式で振り返る。1年に1000点以上の新刊があるという現代のライトノベルの隆盛ぶりを知らない人でも、懐かしく読める1冊。
『ライトノベル☆めった斬り!』を買う

『文学賞メッタ斬り!』
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大森 望、豊崎由美 著(PARCO出版/定価1680円)

文学賞の選考過程にも詳しい著者2人が、芥川賞、直木賞のほか文学界の権威ある賞に対して好き勝手言いまくった対談。ウェブマガジン「エキサイト ブックス」から誕生。
『文学賞メッタ斬り!』を買う


『航路』(上・下巻)
Passage
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コニー・ウィリス 著、大森 望 訳(ソニー・マガジンズ/定価上下各998円)

「アメリカSF界の女王」として知られるコニー・ウィリスの代表作のひとつ。臨死体験をテーマとした大作。大森氏は「とにかく小説としての出来が素晴らしい。最初に英語で読んだときはものすごく興奮した」と。
『航路』を買う

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