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Home翻訳者・通訳者インタビュー >中村妙子さん
第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

翻訳家 中村妙子さん
Translator: Taeko Nakamura

Nakamura Taeko
中村さんが訳した『絵本 ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』(岩波書店)と『ナルニア国の父C.S.ルイス』(岩波書店)

「C.S.ルイスはとても深い思想の持ち主で、言葉を厳密に使い分ける人です。私自身、彼の作品を訳しているうちに気持ちが高揚し、翻訳を中断して部屋の中を歩き回っていることが度々ありました」

アガサ・クリスティーや「ナルニア国ものがたり」の作者C.S.ルイスの作品を多数翻訳。特に最近は『絵本 ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』や伝記作品『ナルニア国の父 C.S. ルイス』などルイスに関連した作品で活躍している翻訳家の中村妙子さん。翻訳家になるまでのいきさつや、ルイス作品の魅力などをうかがった。


翻訳の仕事はどのように始めたのですか?
女学校卒業後、英語の教育が盛んな津田塾で2年半学びました。第二次世界大戦当時のことで、その頃は「津田塾専門学校」という名称でした。また、戦争中、内閣情報局でファイリングと翻訳の仕事をしていて、その間、文法書や英語史、英米の小説、詩など、さまざまな本を読んでいました。特に参考にしていたのは、英語科高等教員検定の参考書です。これは、女性が大学に進学する道が閉ざされていた戦前、大学を経ないで専門学校や大学教養課程の教員となる道を開いた試験です。翻訳に必要な英語力は、このときの自主学習が基礎になっていると思います。

戦後はGHQの民間情報教育部で新聞の社説を和文英訳する仕事をしていましたが、「和文英訳ではなく、英語から日本語への翻訳をしたい」と思い、女学生の頃に懸賞小説を書いて掲載されたことのある『少女の友』という雑誌に、「翻訳したい児童小説がある」と手紙を書いたのです。幸いにしてそのときの翻訳が連載されるようになり、翻訳家としての始まりになりました。

その最初の作品は、スイスの作家、ヨハンナ・シュピーリの『ヴィルデンシュタイン城』です。シュピーリは、『ハイジ』の作者として知られていますね。『ヴィルデンシュタイン城』は後に『マクサの子どもたち』というタイトルで単行本になり、児童劇になってNHKで放送されたりしたこともあります。


C.S.ルイスはどのような作家ですか?
ルイスの作品には、「ナルニア国」のような児童文学作品のほかに、詩集や神学論文集などがあります。とても深い思想の持ち主で、言葉を厳密に使い分ける人です。自分の思想をイメージで伝えるとともに、それを言葉を通じて実感させることができる作家なのです。

私自身、彼の作品を訳しているうちに気持ちが高揚し、翻訳を中断して部屋の中を歩き回っていることが度々ありました。翻訳のテクニックなどに頼ることなく、彼の作品を読み進めることが、そのまま訳につながっていったと思います。

一方、絵本『ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』は、原作のいわばダイジェスト版で、原作を踏まえていることを念頭に置きながら訳しました。原作は、児童文学作品とはいえ、小学生から大人までが対象なので、絵本も学齢前のお子さんから大人までが読者だと考えています。単に子ども向けということではなく、親御さんが小さい子どもに読んで聞かせてあげるときには、自分の言葉で読み聞かせできるようにと思って訳語を選びました。


「ナルニア国ものがたり」は映画になりましたが。
映画には原作とは異なる印象がありますが、それは、製作者が作品に対して作家とは異なる意図を持っているからでしょう。

「ナルニア国ものがたり」は1950年代に書かれ、ルイスは63年に亡くなっています。最近訳したルイスの伝記『ナルニア国の父 C.S. ルイス』には、「ナルニア国」が現代において映画化されることについて、「原作者のルイスはそうした決断に正面切ってノーと言ったのではないかと察しがつく」とあります。彼は自分の著作の中で、「フェアリー・テール()こそ、『ナルニア国』の理想の形式である」と言っているからです。

ルイスという作家と彼の本当の意図を知るためには、「ナルニア国」以外のルイスの作品に触れるといいと思います。大人のためのファンタジーというか、むしろ“神話”と言える作品『顔を持つまで』が、近々平凡社ライブラリーから出る予定です。ルイスが「自分を一番満足させた」と言っている作品で、ぜひ読んでみていただければと思います。

)フェアリー・テール=ここでは「おとぎ話としての小説」といった意味合い。


翻訳家を目指す人へのアドバイスをお願いします。
英語の勉強だけでなく、日本語のさまざまなジャンルのものをたくさん読むようにしてください。さらに、訳文はただ書くだけでなく、声に出して読んでみるといいでしょう。自分の「舌に乗せ、耳で試す」のです。


中村妙子(なかむら たえこ)

津田塾専門学校(現津田塾大学)で学んだのち、東京大学西洋史学科卒業。GHQで新聞の翻訳をしつつ、児童文学の翻訳でデビュー。「SF3部作」と呼ばれるC.S.ルイスの作品(『沈黙の惑星を離れて―マラカンドラ 火星編 別世界物語』『ヴィーナスへの旅―ペレランドラ 金星編 別世界物語』『いまわしき砦の戦い―サルカンドラ 地球編 別世界物語』、いずれも原書房)のほか、英米文学の名作を多数翻訳。ルイス関連作品では『絵本 ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』『ナルニア国の父C.S.ルイス』(いずれも岩波書店)があり、アガサ・クリスティーの作品も手がけている。

『別世界にて―エッセー・物語・手紙』
Koji Inokuchi
C.S.ルイス 著、中村妙子 訳
(みすず書房/定価3045円)


ルイスのエッセーとSF談義、4つの物語と24通の手紙を収録。「ナルニア国」以外のルイスの世界を知りたい人に最適。「フェアリー・テールはときに、最良の芸術形式である」と語られていて、ルイスが生きていたら自分の作品の映画化についてどう考えるか、理解する手がかりになるかもしれない。
『別世界にて―エッセー・物語・手紙』を買う

『春にして君を離れ』
Yasuo Inokuchi
アガサ・クリスティー 著、中村妙子 訳
(早川書房/630円)


推理ものとは一線を画し、親子関係や夫婦愛について、一人の女性の心の機微を追いながら描き出す奥深い作品。当初「メアリ・ウェストマコット」というペンネームで出版されていた。中村妙子さんはこのほかにも、『暗い抱擁』などクリスティーの純文学系の作品を多数手がけている。
『春にして君を離れ』を買う

『シェルシーカーズ』上下
Koji Inokuchi
ロザムンド・ピルチャー 著、中村妙子 訳
(朔北社/各2520円)


ロザムンド・ピルチャーは欧米で絶大な人気を誇る小説家で、これは彼女の代表作の一つ。イギリスのコーンワルに住む女性と、その父親である画壇の巨匠の作品「シェルシーカーズ」(「貝殻を拾う子ら」の意味)を巡る物語。中村妙子さんによると、「欧米では作品の背景を探るべくコーンワルへのツアーが企画されているほど」とのこと。
『シェルシーカーズ』上下を買う

『絵本 ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』
Koji Inokuchi
C.S. ルイス 原作、チューダー・ハンフリーズ 絵、中村妙子 訳
(岩波書店/1470円)


「ナルニア国ものがたり」の第1作『ライオンと魔女』が絵本になって登場。4人の子どもたちが、偉大なライオン、アスランの作った国「ナルニア」へ入り込んでしまう。小さい子ども向けの絵本だが、大人にも納得のいく内容。中村妙子さんも意識したように、読み聞かせの題材としてもピッタリだ。
『絵本 ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり』を買う

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