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Home翻訳者・通訳者インタビュー > 松田和也さん
第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

翻訳家 松田和也さん
Translator: Kazuya Matsuda

Ryuji Kagami

「マイケル・ムーアの本は、専門書の翻訳よりはるかに難しかったんですぅ(泣)」

ブッシュ大統領批判のドキュメンタリー映画『華氏911』で2004年カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した、映画監督マイケル・ムーア。ブッシュが再選を果たしてますます勢いが盛んに!?

そんなマイケル・ムーアを日本で最初に本格的に紹介したのが、ベストセラー『アホでマヌケなアメリカ白人』と続編の『アホの壁 in USA』。ムーアによるすさまじい毒舌を、見事に日本人にわかりやすいよう訳し切った、翻訳家の松田和也さんに話をうかがった。


マイケル・ムーアの作品を訳してみての感想は?
非常に不勉強で申し訳ないんですけれども、実は出版社から『アホでマヌケなアメリカ白人』翻訳の話をいただいた時点では、マイケル・ムーアの名前も知らなかったんです。編集の方に「毒舌で有名なテレビのプロデューサーで、日本で言うとテリー伊藤氏みたいな人」と聞いていたのですが、今にして思えば、ちゃんとエンターテインメントしながら自分の意見をバーッと押し出す感じなんて、ちょっと小林よしのり氏に近いかもしれませんね。

とはいえ、単なるエンターテインメントだけではなく、アメリカの政治や歴史について相当詳しく語っている本ですから、訳す前にはアメリカ史やアメリカの法律、選挙制度に関して、あれこれ勉強しました。でもまあ、アメリカローカルのCMが元ネタになってるギャグとか、そのまま訳しても日本人にとってはギャグにも何にもならないので、いろいろ苦労はしております。

ギャグの訳に関して言えば、まあ密度の問題という感じで、自分なりの工夫をしています。たとえば1ページあたり2個くらいの割合で日本語にならないギャグがあるとしたら、同じくらいの密度で、日本語独特のギャグを混ぜてしまうとか。bully(いじめっ子)なんてギャグでも何でもないんですが、ギャグ密度上の問題で、あえて某漫画のキャラを借りて「ジャイアン」としてみたりとか。あと、ギャグじゃないんですが、マイケル・ムーアの語りでmy wifeとなっているのを「奥ちゃん」にしたんですけど、「妻」とか「女房」という日本語にまとわりついているある種の「重さ」がイヤで、もう少し肩の力の抜けた、しかも愛のある感じを出したくて、ああしてみました。まあ案の定、賛否両論だったんですが(笑)


これまでどんな作品を訳してこられたんですか?
元々は、『悪魔学大全』(青土社、ロッセル・ホープ・ロビンズ著)、『黒の画家フランシスコ・ゴヤ』(青土社、ジュリア・ブラックバーン著)など、宗教や美術系の、しかもマイナー方面の仕事が多かったんですが、いずれにせよあまり知られていない世界を表に紹介するという意味では、アメリカ社会の裏面を暴いているマイケル・ムーアの仕事もそう変わらないのでは、という気も……やっぱりしませんね(笑)。

ムーアの本よりも、専門性の高い学術書っぽいもののほうが大変に思えるかもしれませんが(かくいう私自身もそう思っていましたが)、実際には専門書の方は、関連文献を読みまくって専門用語さえしっかり押さえれば、まあ何とかなってしまうという……。文章そのものは論理的に書いてありますからね。むしろムーアの本のようにくだけた調子のもののほうが、自分で工夫して書かなければならないところが多くて大変だということが骨身に染みました。


翻訳家になられたきっかけは?
大学を出て6年間、地元で高校教師をしていたのですが、元々本が好きだったので、何か本にかかわる仕事ができればと、勤めを辞めて1人で東京に出てきたんです。

それまで自分がよく読んでいた本の出版社をいろいろと回って「翻訳の仕事でもやらせてもらえませんか」というような話をしたら、たまたまそこにいた社長さんと話が合ったりして、その場で原書のコピーを渡され、「じゃ、これやってみる?」って言われて。

そうして手がけた翻訳が結構気に入ってもらえて、じきに最初の訳書『吸血鬼の事典』(青土社、マシュー・バンソン著)が出たんです。大学では西洋美術史を専攻していたので、キリスト教や悪魔といった世界は結構なじみのあるもので、以来、そういった分野の翻訳が年に4冊くらいのペースで続くようになりました。


翻訳の勉強はどのようにされたのですか?
大学時代は、論文を英語で読まなければならないことが多かったんです。それと、読みたい本が日本語になっていないということもよくあって、英語で読まざるを得なかったりとか……。理系の本も結構好きで、教師をやっていたときには、生物の先生の主宰する分子生物学の洋書の輪読会に入れてもらってたりとかしてました。

翻訳については、東京に来てから独学で、翻訳作法の本などを読んで学びました。原文の中に他の文献の引用文が出てくることが多かったんですが、しめしめって感じで(笑)。すでに訳されているものや定訳を徹底的に探し出してきて全部見比べたり、といったことをしていましたね。

ボキャブラリーは辞書を引いて増やしました。今使っているのは、『リーダーズ英和辞典』『リーダーズ・プラス』『ランダムハウス英和大事典』『OXFORD現代英英辞典』などです。メディアは「電子ブック」というやつなんですが、、古い規格でして、専用のプレーヤーがほとんど入手できないんです(泣)。しょうがないのでパソコンで見ています。

英語をしゃべるのはあんまり得意ではないんですが、英会話学校に通ったりもしています。しばらく行ってやめて、また思い出したように通って……と、あまりいい生徒ではないんですが、たまにネイティブと話をすると、いろいろ刺激を受けますね。


今、一番興味のある分野は?
これまではノンフィクションのものが多かったんですが、そのうち小説もやってみたいと思っています。「これまでこのジャンルでやってきたから、ほかのことはできない」って決めてしまうとそれで終わりですんで、まあ人間、何事も勉強ということで、生きてる限りはやれることはなんでもやっておこうと。

実は、最近書くほうにも色気を出しつつあって、自分で小説の構想を練っているっていうか、本当はまだ何もしていませんが、こうして会う人ごとにそう宣言して自分にプレッシャーをかけているという(笑)。舞台は2世紀ごろのアレキサンドリアで、ヘレニズムとヘブライズムの拮抗といったことがテーマ。聖書の福音書書記の中にも存命中の人がいたりして、当時の有名人総登場って感じで。どうでしょう、おもしろいと思ってもらえそうでしょうか? できたら1年くらいのうちに出してみたいですね。

松田和也(まつだ かずや)

翻訳家。1963年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒業。高校の国語教師を務めたのち、東京で翻訳家に。主な訳書に『アホでマヌケなアメリカ白人』(マイケル・ムーア著、柏書房)ほか『悪魔学大全』(青土社、ロッセル・ホープ・ロビンズ著)、『ワッキー・チックス 人目なんて気にしない、ありえないほどエキセントリックな女たちに学ぶ人生のレッスン』(サイモン・ドゥーナン著、青土社)など。

『アホの壁 in USA』
Downsize This!
『アホでマヌケなアメリカ白人』
Stupid White Men
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マイケル・ムーア 著、松田和也 訳(柏書房/定価1680円)

『アホの壁 in USA』の原書は、アメリカでは『アホでマヌケなアメリカ白人』より前に出版された。レーガン、パパ・ブッシュ、クリントン、ヒラリーなどおなじみの面々をこきおろすマシンガントークはここでも全開。高校の銃乱射事件を扱って各国で賞を得た映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』の背景理解にもなる。

『アホの壁 in USA』を買う
『アホでマヌケなアメリカ白人』を買う

『黒の画家フランシスコ・ゴヤ』
Old Man Goya

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ジュリア・ブラックバーン 著、松田和也 訳(青土社/定価2520円)

19世紀スペインの宮廷画家として知られるフランシスコ・ゴヤ。華やかな名声とは裏腹に、人生半ばにして聴覚を失い、苦悩に満ちた生涯を送った。天才画家の意外な姿に触れることができる1冊。

『黒の画家フランシスコ・ゴヤ』を買う


『ワッキー・チックス 人目なんて気にしない、ありえないほどエキセントリックな女たちに学ぶ人生のレッスン』
Wacky Chicks : Life Lessons from Fearlessly Inappropriate and Fabulously Eccentric Women

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サイモン・ドゥーナン 著、松田和也 訳(青土社/定価2310円)

バーニーズ・ニューヨークのクリエイティブ・ディレクターであり、「ニューヨーク・オブザーバー」紙のコラムニストでもある著者が、過激でオシャレな女性たちにインタビュー。松田和也氏は「女性向けにするため、某女性作家の文体などを参考にした」と言う。
『ワッキー・チックス 人目なんて気にしない、ありえないほどエキセントリックな女たちに学ぶ人生のレッスン』を買う


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