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Home翻訳者・通訳者インタビュー >久徳省三さん
第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

翻訳家 久徳省三さん
Translator: Syozo Kyutoku

Syozo Kyutoku
「翻訳の仕事を始めてすぐ気がついたのは、『ビジネスの英語と翻訳の英語は違う』ということです。ビジネスの英語は、細かい文法の間違いなどは気にしませんが、翻訳の英語では、まず正しい文章であることが要求されるのです」

世界を飛び回るビジネスマンとして活躍、定年退職後は英語力と専門知識を生かしてフリーの翻訳者に。特にパソコンの翻訳支援ツールについては自ら研究を重ね、後進への指導にも当たっている。翻訳者としての第二の人生は「会社員時代より忙しい」という久徳省三さんに、実務翻訳の世界で成功するための秘訣をうかがった。

どのようにして翻訳者になったのですか?
メーカーや貿易商社で約40年輸出入の仕事に携わり、日本と海外を行ったり来たりという生活をしていました。仕事は営業だったのですが、取り扱い製品の説明をしなければならなかったので、英語力や機械に関する知識が必要でした。書類を自分で翻訳したりする機会もあり、定年後は「英語力と専門知識を生かして、いずれ翻訳者に」という気持ちもあったのです。7年前、会社をリタイアすると同時に、フリーの翻訳者として独立するための準備を始めました。

会社員時代から、翻訳会社の存在は知っていました。何社かトライアルを受けてみたところ合格し、順調にスタートを切ることができたのですが、始めてすぐ気がついたのは、「ビジネスの英語と翻訳の英語は違う」ということでした。ビジネスの英語は、細かい文法の間違いなどは気にしませんが、翻訳の英語では、あくまで正しい文章であることが要求されます。「これは、翻訳の英語を一度きちんと学んだほうがいい」と、翻訳の通信講座を受講して勉強を重ねました。

幸いにして、1年目で常時4〜5社の翻訳会社から依頼が来るようになり、あっと言う間に会社員時代より忙しくなってしまいました。当初は契約書の翻訳から始めたのですが、取扱説明書など技術文書のほうが案件ごとの量が多いことに気づき、次第にそちらのほうに重点を移していきました。現在主に手がけているのは、機械、電子、電気、IT、パソコン、自動車関連の技術文書です。私の場合、幸いにして会社員時代に機械や電子の文書には慣れており、自動車の部品も扱っていたこともあったので、内容を理解するのに大きな苦労はしませんでした。


英語はどのように勉強されたのですか?
大学では法学部だったのですが、「ほかの学生がやっていないことをやってみよう」と思い、銀座にあった英会話学校に通い始めたのです。その頃はまだ英会話を習っている学生はそう多くなく、会社に入ってみると、他の社員より私のほうが英語がうまかったのです。希望どおり海外関係の仕事に就くことができました。海外出張のほか、2年間ニューヨークに駐在したり、海外から日本に来た取引先との交渉などと、会社ではずっと英語に触れる仕事をしていました。

パソコンの使い方を覚えたのも、会社員時代です。MSドスが提供され、プログラムが書けなくてもコンピューターが使える時代になったので、「うちでも導入してはどうか」と、自分の職場で提案したのです。また、機械翻訳のデモンストレーションを見に行く機会があり、そのときからパソコンの翻訳支援ツールに、非常に興味を持つようになりました。

フリーになる前から社団法人日本翻訳連盟に入会し、「翻訳環境研究会」のセミナーに通っていたのですが、仕事を始めてからも連盟の活動に携わっているうち、理事を務めることになりました。そして、「翻訳支援ツール委員会」の委員長をすることになったのです。翻訳支援ツールとは、文章を自動的に翻訳してくれたり、よく使う語の用語集や対訳文例集を半ば自動的に作成してくれたりするパソコンソフトです。

プロの翻訳家の方の中には、「機械翻訳は使えない」と思っている方が多いようです。実際、機械に翻訳させただけでは、訳が不自然で使えません。ただ使い方次第で、翻訳作業の効率を上げることができるのです。例えば、同じクライアントから続けて仕事の依頼がある場合、1回ごとに異なる訳し方をしていたのでは、クライアントに迷惑がかかります。そこで、そのクライアントの案件について、訳のデータベースを作成しておき、決まった表現には毎回同じ訳を当てるようにすれば、クライアントも安心ですし、翻訳者としても効率よく仕事ができます。

翻訳支援ツールは、実務翻訳の世界では次第に重要な存在となってきていて、特にコンピューター翻訳の世界では、「TRADOS」()というソフトが使えないと翻訳の仕事はできないと言われています。これは多少高価なソフトで、個人で使用している人はまだそう多くはないのですが、中には4万円程度で使いやすいソフトも出ています。私は、翻訳支援ツール委員会の担当として、いろいろな新しいソフトを試しているのですが、今は「PC-Transer 翻訳スタジオ」()というソフトを常用しています。


TRADOS」:コンピューター翻訳の世界では必須とされている翻訳支援ツール。)

**PC-Transer 翻訳スタジオ」:一般ユーザーからプロまで幅広い層を対象とした翻訳支援ツール。)


翻訳家としての普段の生活について教えてください。
自宅で仕事をしているのですが、私は仕事部屋というものを設けていなくて、リビングにパソコンを置き、テレビやステレオが操作できる環境で仕事をしています。先ほどお話ししたように、翻訳支援ツールを使って仕事しているので、まずパソコン上である程度自動的に翻訳を作り、それを人間の目で見て直していくという作業になります。集中して考えなければならないのは、見て直すときだけですから、多少周りに気晴らしになるものがあったほうがいいのです。できあがった文章は声に出して読んでみると、不自然なところがわかることが多いのですが、それもパソコンの文書読み上げツール()を使っているので、私は声を出さず聞くだけです(笑)。

フリーの翻訳の仕事は時間が自由だと思われがちですが、案外自分の思い通りにはならないものです。夕方電話がかかってきて「明日の朝までに」なんていう依頼もありますし、土・日と仕事をしなければならないこともあります。おちおち友人とゴルフの約束もしていられません(笑)。

翻訳業界では、なぜか自宅で実務翻訳をやっている人の職業名を「翻訳者」と呼び、出版翻訳をやった人でないと「翻訳家」とは呼びません。「画家」も「作家」も「写真家」もすべて「…家」で「…者」は職業名としては不自然ですが、業界用語として受け入れざるを得ませんね。


文書読み上げツール:文字で書かれているものを、パソコンソフトが自動的に音声に変換して読み上げてくれる。)


翻訳家を目指す人へのアドバイスをお願いします。
翻訳の収入は人によって差が大きいのですが、英訳の場合原稿用紙1枚訳文200ワードの翻訳料が2000円として、1日10枚こなして2万円。1カ月だいたい20日程度働くとして、40万円、1年で480万円です。和訳の場合は原稿用紙1枚の訳文400字で1500円程度です。労力がかかるわりには、決して大きい額とは言えません。社団法人日本翻訳連盟では、全国の翻訳会社にアンケート()を実施しているのですが、それによると、ここ数年で翻訳の単価は下がっているのが現状です。

そこで私は、これから実務翻訳の仕事をしたい人には、「まず企業などで英語を使う仕事をして、独立するならそれから」と勧めています。実務翻訳には英語力だけでなく企業の実務に関する知識が必要とされるので、会社で働いた経験があれば、それだけ有利になるのです。大学を出てすぐ翻訳者になろうというのではなく、企業で経験を積み、英語力を鍛え、実力をつけてから独立しても、遅くはないと思います。


翻訳会社へのアンケート:社団法人日本翻訳連盟が、全国の翻訳会社と翻訳を業務の一部としている会社を対象に実施している。)

Syozo Kyutoku
 
久徳省三(きゅうとく しょうぞう)

1933年東京生まれ。日本大学法学部卒。音響メーカーや商社に勤務、音響製品・電子部品・自動車部品の輸出入に関する営業に従事。その間、アメリカ駐在2年、海外渡航暦は約50回。定年退職後、フリーの翻訳家として独立。機械・電子・電気・IT・パソコン・自動車関連など、多方面にわたる分野で活躍中。社団法人日本翻訳連盟理事。同連盟では「翻訳支援ツール委員会」の委員長として、翻訳支援ツールの説明会などを開いている。

「翻訳の久徳」
Syozo Kyutaku's website
 
久徳さんの個人サイト。翻訳者としてのパソコン環境、使用ソフト、使用辞書などが掲載されており、実務翻訳を目指す人には、大変参考になるはず。豊富な海外経験を生かした「アメリカ見聞録」も掲載。

http://kyutoku.cocolog-nifty.com

取材協力:社団法人日本翻訳連盟
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